三陸ラビリンス気仙沼(弁護士東忠宏)

気仙沼の弁護士東が,弁護士活動において考えたことなどを書いています。毎週日曜日に更新記事をアップするのを、目標とします。

保険金訴訟(モラルリスク事案)の思い出④-反転攻勢・破

 (すいません,どうにも忙しく,この更新ペースです,,,)

 

このペースでは終わらないので,今回の連載の目的ー火災保険金訴訟における契約者側の立証活動について,私が取り組んだことの紹介をします。

 

1 採取試料につき,削り跡の写真を見よ!

これに気付いたときは,コーフンしたなー。

相手方保険会社の調査会社報告書は,焼けた柱から採取試料を削ったと言うが,写真を拡大して見ても,とても削った跡なんてないんですよね。

まぁ,「反省」して,今後は跡を残すようにするでしょうが。

 

2 保険会社代理人の訴訟活動をチェックせよ!

保険会社側は,しきりに試料の採取・保存過程の適正を強調します。

じゃ,他の訴訟でも,こんな採取過程なのね,本当なんだね?

じゃあ,他の訴訟の記録を閲覧させてもらうよ,,,

(その方法について,興味あったらお問い合わせ下さい。)

おお,なんだ,こんなちゃんとした方法で採取しているじゃないか,それ知っているのに,この訴訟ではこんなことを言うんだ!

 

あともう二つ程,私なりの取り組みがあるのですが,あまり手の内を言うのもどうかと思い,この程度にします。

 

火災保険金訴訟・契約者側に取り組まれている弁護士さんが,行き詰まったとき・悩んでいるときに,ふと検索して,本ブログを読んでくれことを期待しつつ,,,

そう,「反転攻勢・急」を実現するのは,あなたなのです(とまとめてみた。)。

 

 

 

保険金訴訟(モラルリスク事案)の思い出③-反転攻勢・序

〔第5回期日まで〕

困ったときは,依頼者に会う。

これは私のみならず,他の弁護士さんもそうしているだろう。

私も,特に苦しければ苦しいほど,よく分からないが,とりあえず依頼者に会うようにしていた。

 

火災調査探偵団の先生からも,とりあえず,出火元と思われる部屋について,火災前の室内の様子を図面にするように言われた。物品の位置とかね。

 

もちろん家は全焼・取壊しを終えているから現場に行っても仕方がないはずなのだが,いかなるきっかけだったのか,行くことになった。

 

そこで,ようやく(私の聴取り方がまずかったことを晒すに等しいが),隣の人の初期消火活動の様子とか,それに要するはずの時間(燃え広がりが人の手に負えなくなるまで,相応の時間を要したはずであること・その程度の消火活動に取り組んでいたこと)が,

相手方代理人がしきりに強調する,灯油検出量の「異常な多さ」

と矛盾するように思えてきた。

火災発見・初期消火活動などは,私・イソ弁で実際に動いてみて,それに要する時間を計ったりまでして確信を深めていった。

 

さて,私も反省を込めて書いておく(私「も」というのは,つくづく,同世代と思わしき相手方代理人の活動を見ていて,考えさせられるところがあったから)。

ともすれば,私なども経験が浅いから,事件を全体的に観ずに,局所的な部分で最大限有利に主張することが仕事をすることだと思ってしまう。

個別局地戦で,その場での一番強い手を指しておけば,いいだろうと思ってしまうわけですね。

 

でも,世の中の事実は,そういう具合には出来ていない。

合成の誤謬」なんていう現象もある。

 

相手方代理人は,しきりに灯油検出量の多さを強調して,当方の放火関与を主張したが,それが今度は,「そんなに灯油検出量が多い→燃え広がりも早かったはずなのに,隣人らは相当の初期消火活動を出来ていた・なぜ?」となってしまったのだ。

この隣人の消火活動は,火災直後に業界新聞に詳細な手記を寄せているなど,いわゆる「動かしがたい事実」と言ってよいものだった(なんか都合が良すぎてドラマみたいだけれど,本当にそうだったのだ。)。

 

ここに来て,なんと当方が,むしろ灯油の大量検出がかえって不自然だ,被告が大量検出を主張することが有利になる,という逆転現象が生じてきたのである。

 

その他,灯油成分の採取にまつわる疑義,当方の経済的状態なども,まずまず主張した。

 

なんだか追いついてきたようだ。

が,どうも相手方主張と矛盾する間接事実を立てられたとしても,モラルリスク事案における契約者側主張としては,まだ弱いようだ。

世の中には,灯油検出と経済的事情(それだって何とでも説明が付く)で,放火犯の内部事情は分からないからと,いっちょ上がり式の判決などいくらでもあるのだから。

とはいえ,原告側の事情は使い切ってしまった。

どうしたものか!?

保険金訴訟(モラルリスク事案)の思い出②-模索編

〔第3回期日・第4回期日〕

第2回期日において,相手方より,焼け跡から大量の灯油成分が検出されたとの主張・立証がなされた後,

それにどのように対抗したらいいのか,この半年くらいが,この訴訟で一番大変だったと思う。

 

なにせ,「モラルリスク」なる言葉すら,相手方代理人の書面により初めて知ったくらいだから,どういう方向で争えばいいのか,さっぱり分からぬ。

ただ,私としては,元々依頼者が知っている方であり,震災後の市民皆が家に困っている状況でわざわざ自宅を放火するか,保険会社の主張が無茶だとは思っていた。

しかし,裁判所というのは,そんなことよりも,客観的に灯油が出たのだから,ということを中心において考えるだろう。

 

とりあえず考えたのが,

・ 灯油成分検出場所は,火元ではない。それを,火災の燃え広がり方から推測する,

というのはどうか,というものであった。

 

これも,懇意にしている消防関係の方に見てもらったりしたが,火災の方向性というのを,簡単に説明できるようでもなかった(と記憶している。この辺り曖昧)。

 

イソ弁と2人,ああだ,こうだと議論した,と言うと格好いいが,私も(期日では相手方代理人に元気よく発言したつもりだが)半分投げ出し気味になり,イソ弁に方向性の検討を押し付けたりもした。

最初の数か月は,考えては駄目,聞いては駄目,ということの繰り返しだった。

 

で,イソ弁の奮闘もあり検討のための期日を続ける中,上記消防の方の紹介で,火災調査団

火災調査探偵団

の運営者の方を,ご紹介頂くに至ったのであった。

この辺りから,ようやく,反転攻勢の足がかりとなるのであった,,,

(まだ続きます。更新ペースが遅くてすいません。)

保険金訴訟(モラルリスク事案)の思い出①

少し前の,火災保険金訴訟の経過を書きます。

実は,書くことについて依頼者の了解は得ているのですが,適宜改変します。

 

事案はこんな感じです。

依頼者は,某年某月,自宅の火災に遭いました(全焼)。

当然,自宅再建のため,火災保険金を当てにするのですが,担当の調査会社が2度程来ても,なかなか支払へと進まない。

で,「支払いません。」との保険会社代理人の弁護士名の通知が来る。

明確な理由は書かれず。

 

この辺りで,私どもに相談があり受任し,代理人として,とりあえず不払いの理由の釈明を求めるのですが,回答の拒絶。

提訴予告通知に基づく当事者照会として,改めて不払い理由を示すよう求めても同じ。

 

やむなく保険金訴訟+慰謝料(提訴予告通知に基づく当事者照会の拒絶を,保険契約に付随する説明義務違反・民訴法違反の不法行為とした)で提訴。

 

形式的な答弁書があり,なにやら「モラルリスク」(という言葉を,私はこの書面で初めて知った。)だから払わない,保険金の受領歴,資産収入状況等を明らかにせよと述べてくる。

〔第1回期日〕

ここにおいて,私は,某師匠(当初登録時,同じ事務所に弁護士任官から戻られた方)の教えのとおり,法の予定していない類型の釈明であるとして拒絶。

請求原因(保険契約の締結,火災による全焼)は立証しているのだから,抗弁を主張しないのなら早く結審せよ,と述べた。

〔第2回期日〕

そうしたところ,どどんと出てきたのが,被告の第1準備書面,対応する書証は,焼け跡から灯油成分が「大量」に検出されたというものであった,,,

 

さあ,これに,どう対抗したらいいのか,我々の悩み・奔走が始まった,,,

何しろ,同種訴訟をやったことが無く,本当に,なぜ払わないのか,さっぱり分からないまま訴訟になったんだから。

(今にして思えば,不払い理由を訴訟前に開示しないのも,保険会社側なりの戦略の一環ともいえるのです。交渉事件なら時間は任意取れますが,訴訟になってしまうと期日間という締切りの中で,準備しなくちゃいけない。)

 

 

さぁ,俺は,同種訴訟を年10件超もやっているという保険会社子飼いの代理人らに,どう対抗するのか。

それは次回を待て!。

 

 

男性専用車両がない理由

たまに東京に行くと,電車なりエレベーターで,人と密着しなければならないことの連続で,まぁ大変不快である。

私のように田舎で暮らしていると,車社会であるから,見ず知らずの人ばかり押し込まれる空間など,日常,全く経験していないのだ。

パーソナルスペース浸食への耐性が違う。

 

で,現地調査等のために電車を乗り継ぐのだが,満員電車で側に女性がいると,何かあっても困ると離れるようにしている。

大阪時代,痴漢えん罪を主張した刑事事件の弁護をしたことがあり,かなり一生懸命したつもりだが,その際の勉強や経験では,結論的に,どうしようもなくなる見通しなのだ。

あの時は,それこそ,毎朝4時に起きて移動して,関西私鉄某路線の「犯行」時刻の電車に乗り込み,車内の様子をビデオ撮影すること3日連続とか,まぁ力は入ってた。

(某著名刑事弁護人曰く,周防正行それでもボクはやってない」のおかげで,ともかく電車内の痴漢否認だけは,裁判所も批判を恐れて勾留却下が認められやすくなったそうだ。)

否認の場合の起訴率は,その当時よりは,まだマシになっているかも知れないが。

 

 

そうした不安を受けてだろう「男性専用車両」を求める声がある。

(「女性専用車両」があることへの対抗的・反発的な気持ちからの導入論もあるだろうが,ここでは痴漢えん罪被害を避けるためを主目的にした導入論への批評とする。)

 

もちろん,気持ちは分かる。

日常の通勤で,ある日,その後の人生が暗転する出来事に巻き込まれたら,,,と思うと恐怖感すら覚えるだろう(私も,東京の電車で,チラッとそんなことを思ったりする。)。

 

でも,痴漢えん罪被害を避けるための「男性専用車両」なんて導入されるはずがない。

 

1 鉄道各社が,「痴漢えん罪」なる警察・検察への不信・批判を前提にした公共サービスを提供することを,社会に示せるはずないこと。

警察・検察は,真犯人を確実に捕まえるはずであり,その誤りを恐れて,集団で避難するスペースなど作るのは,警察・検察への挑戦行為と受取られるだろう(と,鉄道各社は思うだろう。)。

(警察・検察は,彼らの論理では,「痴漢えん罪」など存せず,それは,裁判所の被告人への軽信とか,たまたまの証拠不足とか,被害者の動揺によって証言がうまくできなかったことによる無罪があるに過ぎないと考えるしかないだろう。あるいは,被害者が積極的に嘘を言っていたとしても,それは当該「被害者」が悪い・見抜かない裁判所や無力な弁護人も共犯であって,警察・検察による冤罪ではないと思っているだろう。)

 

2 導入後,諸外国の方に尋ねられたら,まさか,痴漢えん罪被害を避けるために,このような男性専用車両が存するのだ,我々国民は,司法を信用していないのだ,それを受けて鉄道各社は導入したのだ,などとは言えないだろう。

その説明には,人質司法とか,推定無罪の現状とか,逮捕・起訴と解雇とかも触れなくてはならなくなる。

 

どうやら,男性専用車両は,冤罪被害という体制側からすれば存在しないはずの被害を前提にする・そのような被害への批評となるもので,認められないのだ。

(痴漢えん罪無罪が年に数件出るくらいなら,突発的事故であって,見過ごすこともできるが,毎日の電車に,痴漢えん罪を前提にしたシステムがあることは認められない。)

 

(しばらく前にFBに投稿した短文を大幅に加筆した。)

補足:「痴漢えん罪保険」なるものも,予め司法への不信を一前提にしている。

ここでは,鉄道各社が,自社のサービスによって,冤罪を作り出す一因となることを積極的に認めることはできないことの相違と理解したらどうか。

 

更新の予定など

すいません。

2月はかなり多忙でして,多忙となると,つい帰宅したら飲んで寝るばかりで,

休日も仕事に出て帰ったら,それこそ飲んで寝るばかりで,

更新に至りませんでした。

 

アクセス数から,更新を期待されていることは分かっているのですが,

(言い訳として,スマホフリック入力が苦手で,ちょっとした文章でも,いちいち事務所に出てきて書いているほどなのです。自宅は考えがあって,今はPCは置いてません。置こうかな。)

そんな状態でした。

 

が,ちょっと地方の弁護士らしい企画も考えつつありますので,お待ちを。

大道寺将司さんと菅家さん

「もう一人の隣人は北関東のほうで幼女を連れ出して殺した容疑で、一・二審とも無期刑の判決を受けた人。新聞報道によると、彼は冤罪を訴えているようです。でも、ぼくは彼の事件については詳細を知りません。ですから、彼が実際に幼女を殺したのか,冤罪なのか,判断する材料もありません。ただ、近くで接していると、警察官や検察官から、「おまえが殺したんだろう」と決めつけられたら、彼が反論などできない人であることはわかります。気が小さくて、自己主張するような人ではないからです。以前、ぼくは彼をかなりの難聴者だと思ったことがあります。というのは、看守や雑役囚が彼に話しかける時、一度では済まず、必ず二度三度、同じことを繰り返すからです。しかし、一度言っただけでは彼にはなかなか通じない、つまり彼が理解するのに時間がかかるからだということがわかりました。弁護人と意思疎通ができているのか疑わしいくらいですが、冤罪ならしっかりと闘ってほしいと思います。」
(一九九六年十月三一日)


「死刑確定中 大道寺将司」を再読して発見。