三陸ラビリンス気仙沼(弁護士東忠宏)

気仙沼の弁護士東が,弁護士活動において考えたことなどを書いています。毎週日曜日に更新記事をアップするのを、目標とします。

漁船に家族(ことに子ども)を乗せることについて

1 漁船にはJCIの検査は要しないが,それは漁船として用いるのが前提

家業としての沿岸小規模漁業においては,幼いころから海に慣れさせるため,子どもを幼少期時分から漁船に乗せて連れ出す,ということがよく行われているようです。

ところで,小型船舶については,船舶安全法所定の検査(日本小型船舶検査機構〈JCI〉)を受けなければならないところ,漁船については例外として同検査を要しません(船舶安全法2条,附則32条)。

これは当該小型船舶につき漁船として用いる場合の例外ですから,たとえ普段,漁船として用いている船であっても,一時的にといえレジャー(レクレーションとしての釣りとか,観光目的での運行等)として船を用いるのであればその際は上記検査を要し,これを欠くことは同法違反です(同法18条)。

(→JCIの検査を受けていない漁船は,漁船としてしか用いてはならない。)

 

2 漁船に子どもを乗せていることへの取り締まり

平素,我が子に漁を手伝ってもらっていたところ,子が漁船に乗っているところを海上保安署の職員に現認され,手伝いの実情をいくら説明しても「そんな小さい子を乗せている以上,漁船としての利用の仕方ではないから船舶安全法違反だ」と聞き入れられず事件化され,捜査→罰金となってしまう,という事案が近時あるそうです。

 

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海上保安署のチラシ(赤丸・波線は私が付しました)

 

これは海上保安署のチラシですが,「子どもであっても漁業目的の乗船は認められるのですよ」という基本・スタートラインが,ちょっと伝わりにくいようい思います。

 

3 私の取り組み例

さいころから船に慣れさせ,海に親しませることによって漁業を代々承継してきた浜の取り組み(聞いた話しでは,当地の一部では,シーズンによっては漁の手伝いとて学校の時間をずらしていた時代まであったそう)に調和させつつ,法は解釈されなければならない・少なくとも一律○歳までは乗ってはいけないなどという運用がなされてはならないでしょう。

 

同種事案に遭遇された方が本ブログに辿りついたとして何かの足しにならないか,元依頼者の承諾を得た,私が海上保安署に対し提出した意見書の一部を,匿名化しつつ披露する次第です(事案の解決としては,送検後に不起訴)。

重要な点は,「陸廻り」であっても(適法な漁船乗船者である)「漁業従事者」となる,ということです。

 

宮城海上保安部 気仙沼海上保安署 御中     

                   意 見 書           

                                         令和3年●月●日 
                                                   弁護人 東 忠宏  

1 本件当時,被疑者の息子・●は,被疑者の指示の下,
  ① 船の係留ロープの補助(貴庁職員も,当日現場において,同息子が,係留時にロープを引っ張っている・船を抑える等の作業をしている姿を現認したはずです。),
  ② その他,周辺に浮遊物・障害物がないかの見張りなどの活動
  等をしていました。
   また,同息子は,本件以前の乗船時・下船後も,①・②のほか,被疑者の指示に従って,漁具の運搬,採取物の収納や運搬,メカブを削ぐなど多様な作業をしています(添付写真●枚〔令和2年●日撮影←陸廻り=直接漁労作業とくっつき密接不可分の陸上作業をしている。〕も参照)。
2 前項の同息子の被疑者の下での活動は,雇傭関係のうち「近代化しない家族労働の関係」(金田偵之「実用漁業法詳解」21頁)といえ,漁業法2条2項の「漁業従事者」といえます(なお,いわゆる陸廻りも「漁業従事者」に含まれます〔同書22頁,佐藤隆夫「日本漁業の法律問題」80頁〕)。
 そうすると,被疑事実当時の,当該船舶の利用の仕方は,漁業者・漁業従事者による漁船としての使用として,何ら問題がなかったといえます。
3 また,被疑者が,令和3年●日の取り調べ時,●氏(海上保安庁職員)に対し話したとおり,被疑者は当該船舶に同息子を乗せて磯草(ヒジキなど)の成育状況を見に行ったりしたことがあるなど,同息子につき,更に「漁業従事者」としての成長を促すべく,指導・育成をしていました。
   この点,「漁業従事者」の意義について考えるに,当初からいきなり万全の活動ができる者などいるはずもないこと及びその育成過程における乗船も適法と解すべきこと(育成過程における漁船への乗船を,一律「漁業従事者」ではない者の乗船として船舶安全法違反と解するのは現実的ではない。)から,1項程度の稼働をしているのであれば,十分「漁業従事者」と解すべきでしょう。
   このような解釈は,幼いときから船に慣れされる・慣れさせたい,という地域の実情にもよく合い,水産業の将来の担い手を育成するためにも合致するといえます。
   一人前の漁師並みの活動ができるまでは登録船舶で練習をさせる・家族の漁船には乗せない,練習を経て万全の活動が出来るようになってからようやく「漁業従事者」に該当するものとして漁船に乗られるようになる,というのは現実的ではありませんし,古くから子どもらも家族の漁業を手伝ってきた実情にも合いません。