三陸ラビリンス気仙沼(弁護士東忠宏)

気仙沼の弁護士東が,弁護士活動において考えたことなどを書いています。毎週日曜日に更新記事をアップするのを、目標とします。

吃音(どもり)と弁護士業務

これを書きたいと思っていた。

 

そう思っていたのだが,私にとって,言葉が出にくいのは子供のころから当たり前のことで,「自分が吃音者である」ことが何かの拍子がないと,思い至らないのだ(これを読んでいる方が,自分を「40歳の男である」などと平素,意識しないように)。

(このうように,少なくとも私の場合,吃音に劣等感など全く持っていない。治療的なことをしたいとも全然思わない。)

ふと気づいたときに書きたいと思うのだが,すぐ忘れてしまって(!),今,ちょうど時間もあるときに気づいたので,ようやく書ける。

 

 

 

私を子供のころから知っている人が,私が弁護士をしているとして驚くのは,恐らく,大した成績でもなかったはずなのに弁護士になれたのか,ということと,吃音なのに弁護士業務はできるのか,ということだと思う。

実際に言われたこともある。

 

前者(勉強が大してできたわけではないこと)は,全くそのとおりだと自分でも思う。

高校は,総合選抜制度(実質的に高校受験がない)下の兵庫県明石市において,明石北高校普通科という,まぁ地方のどこにでもある程度の高校である。

で,入学時のテストで,400人中379位であった。

(あまりにひどいので覚えている。後に司法試験に合格してから,こんなに勉強に取り組めるなら,まともな高校受験をすれば,もっと良い大学に行けたのではないか,と思う度,いやいや,あの高校でも精一杯だったのだからどうしようもないのだ,と思い至ってホッとするw) 

 

が,司法試験との相性が本当によかったのだと思う。

もちろん,今振り返っても相当勉強したと思うが,反対に言えば,それだけ勉強に取り組めるほど,自分の興味・関心・考え方に合致していたのだろう。

自分で言うけれど,司法試験受験生としては優等生だったのだ。

 

後者(吃音と弁護士業務)だが,そもそも上記のように,私は自分が吃音者だと平素,全く意識していない。

だから,吃音で弁護士業務に支障が,,,などと考えて職業を選ばなかった。

 

そもそも,弁護士が日常,いかなる仕事をしているか,ということを知ったのは,司法試験に合格して,「事前研修」と称した,姫路総合法律事務所での3日間?が初めてだった(竹嶋健治先生にお世話になった。)。

これが,大学を卒業して2年目の,平成14年1月ころのことだったと記憶する。

これほど,書面を書いたり読んだりすること,依頼者の話しを聞くことが中心の仕事だと,全く分かっていなかったわけだ。

(じゃ,一体,弁護士の仕事とは何だと思っていたのか?と聞かれると,答えに窮する。法廷傍聴も数回したことがあったはずだが,司法試験受験中は,なにやら,この受験勉強の延長のようなことを考えていたように思う。つまり,このように事実関係こそ争いの中心だということに思いが至らず,確定的な事実への法的評価・議論のような仕事を想定していたのだろうか。いや,当面の合格ばかりを,専ら考えていて,その後のことはまともに考えていなかった,というのが実態だろう。)

(そのような実態を考えると,親が弁護士の家で育ったとか,それなりの進学校・トップレベル大学で過ごす,ということの意味は大きい。彼らは,次がどうなるかを直接人から見聞きして,それを踏まえて今を過ごしているのだから。私は大学も大した所を出ていない。)

 

この調子で書いていると長すぎるので,簡単に整理しておく。

 

まず,証人尋問について。

意外だろうが,まずまずのつもりである。

司法の歴史,名物弁護士を調べるのが好きなので,近代の尋問成功譚はある程度知っているし(尋問は経験が物を言うが,全て実地で経験しなくとも,それを読み物で先取りできるのだ),尋問に関する研究書もよく読む。

何より,尋問となると,ようやく自分が吃音があることに思いが至るので,私も話せないことを恐れて,とんでもない量の準備を当初からしていた。

反対尋問もそうだし,主尋問は依頼者と実際のやり取りを何回も練習する。

話せないかも知れないという恐れが,かえって良い方向に出たようだ。

(後記のように,決まったことを言うのが難しいので,準備をしつつも,その場の表現で聞く,という具合になり,うまくマッチするのだ。)

(近時,何とでもなると経験してきて,よくない傾向)

 

これを吃音を抱えた方が読んでいるとすると,お察しのように,私はあまり大した程度ではないのだと思う。

 

話しの始めの単語が,母音がアとオで始まるのが苦手(「友達」とか,「明石」とか)なのだが,それを違う単語で始められるのならば,まぁ早口だろうが,本人的には支障がない。

 

ということで,打合せとか,交渉とか,期日でも,まぁ自分としては問題がない。関係者がどう思っているのかは知らないけれど。 

 

さて,困るのが,「あらかじめ言うことが決まっていること」から口に出さなければならない場合だ。

電話して「弁護士の東です」とか,自己紹介で「東でございます」などの場合である。

何というか,アドリブ的に,その場の思いつきで,言葉を勝手に選んで話しをする分には支障がないのだが,決まったことを言う,というのが難しいのである。

(それが,吃音と心理の関係なのだろう)

(あと,親しい人との間では吃音がひどくなり,そうでない人とは普通に話せる,というのもある。これのため,近時,事務所も8年となったので,事務員に声が掛けられず,苦しむことが多いw。) 

 

で,この苦手な「あらかじめ言うことが決まっていること」が,唯一,法廷であるのだなー。

そう,刑事裁判の冒頭手続での起訴状に対する意見陳述,弁護人「被告人が述べたとおりです(言うとおりです,同意見です,ほか)」である。

これは,本当に苦手。机に,スイッチを押したら「同意見です」と発声する装置を置いて欲しいくらい。

 

ともあれ,弁護士業務はできています。

そして,どうやら大変相性が良いようで,ちょっと,これ以外の職業を自分ができたのか,想像できないぐらいです。

 事実関係も立法経緯も,ともかくしつこく調べるところが合っている。

 

最初にも書いたように,私は,話しをするときに最初の単語に注意することなど,自分にとっては当たり前のことで,意識するまでもないことです。

そうだから,近時,新聞で見た,以下の記事はびっくりした。

まぁ,程度がある話しだから,私は何とも思っていないから,,,とは言えない問題でもある。

 


吃音理由の身障者手帳申請を却下 取り消し求め提訴 | 河北新報オンラインニュース

 

 

 

そうそう,コンビニで支払うとき「Suicaで」も予め決まっていることなので,言うのが難しい。

ローソンは黙って携帯を置けばいいので,その点で大変有り難い。