保険金訴訟(モラルリスク事案)の思い出③-反転攻勢・序
〔第5回期日まで〕
困ったときは,依頼者に会う。
これは私のみならず,他の弁護士さんもそうしているだろう。
私も,特に苦しければ苦しいほど,よく分からないが,とりあえず依頼者に会うようにしていた。
火災調査探偵団の先生からも,とりあえず,出火元と思われる部屋について,火災前の室内の様子を図面にするように言われた。物品の位置とかね。
もちろん家は全焼・取壊しを終えているから現場に行っても仕方がないはずなのだが,いかなるきっかけだったのか,行くことになった。
そこで,ようやく(私の聴取り方がまずかったことを晒すに等しいが),隣の人の初期消火活動の様子とか,それに要するはずの時間(燃え広がりが人の手に負えなくなるまで,相応の時間を要したはずであること・その程度の消火活動に取り組んでいたこと)が,
相手方代理人がしきりに強調する,灯油検出量の「異常な多さ」
と矛盾するように思えてきた。
火災発見・初期消火活動などは,私・イソ弁で実際に動いてみて,それに要する時間を計ったりまでして確信を深めていった。
さて,私も反省を込めて書いておく(私「も」というのは,つくづく,同世代と思わしき相手方代理人の活動を見ていて,考えさせられるところがあったから)。
ともすれば,私なども経験が浅いから,事件を全体的に観ずに,局所的な部分で最大限有利に主張することが仕事をすることだと思ってしまう。
個別局地戦で,その場での一番強い手を指しておけば,いいだろうと思ってしまうわけですね。
でも,世の中の事実は,そういう具合には出来ていない。
「合成の誤謬」なんていう現象もある。
相手方代理人は,しきりに灯油検出量の多さを強調して,当方の放火関与を主張したが,それが今度は,「そんなに灯油検出量が多い→燃え広がりも早かったはずなのに,隣人らは相当の初期消火活動を出来ていた・なぜ?」となってしまったのだ。
この隣人の消火活動は,火災直後に業界新聞に詳細な手記を寄せているなど,いわゆる「動かしがたい事実」と言ってよいものだった(なんか都合が良すぎてドラマみたいだけれど,本当にそうだったのだ。)。
ここに来て,なんと当方が,むしろ灯油の大量検出がかえって不自然だ,被告が大量検出を主張することが有利になる,という逆転現象が生じてきたのである。
その他,灯油成分の採取にまつわる疑義,当方の経済的状態なども,まずまず主張した。
なんだか追いついてきたようだ。
が,どうも相手方主張と矛盾する間接事実を立てられたとしても,モラルリスク事案における契約者側主張としては,まだ弱いようだ。
世の中には,灯油検出と経済的事情(それだって何とでも説明が付く)で,放火犯の内部事情は分からないからと,いっちょ上がり式の判決などいくらでもあるのだから。
とはいえ,原告側の事情は使い切ってしまった。
どうしたものか!?